NATURE IN THE GLASS 「グリーン・ヘブン」
暗闇に浮かぶライトグリーンの葉で幻想の水景を表現
[ グリーン・ヘブン ] 暗闇の中、無数のきらめく光を追っていくと、そこには浮遊感のある幻想的な水中の森が広がっていた。そんなストーリーを思い描いて制作した水景。この水景は、一見するとライトグリーンのチドメグサの仲間が強烈に印象に残るが、あとで形としてレイアウトを思い出そうとしても思い出せないような曖昧な印象表現で制作されている。そこでは小型のネオン・テトラが泳ぐたびにキラキラと輝き、幻想的な世界を彩る。
DATA
撮影日 : 2020年11月26日(ADA)
制作 : 井上 大輔(レイアウト制作)
水槽 : キューブガーデン W180×D60×H60(cm)
照明 : ソーラーRGB ×3(1日8時間30分点灯)
ろ過 : スーパージェットフィルターES-2400(バイオリオL)
素材 : ブランチウッド、山水石
底床 : アクアソイル-アマゾニア Ver.2、パワーサンド・アドバンスL、バクター100、クリアスーパー、トルマリンBC
CO2 : パレングラス・ビートル50Ø、CO2ビートルカウンターで1秒に10滴(タワー使用)
AIR : リリィパイプP-6によるエアレーション 夜間消灯時15時間30分
添加剤 : ブライティK、グリーンブライティ・ミネラル、グリーンブライティ・ニトロ、ECA・プラス
換水 : 1週間に1度 1/2
水質 : 水温24℃ pH:5.8 TH:20mg/L
水草 :
BIO ウォーターローン
BIO オーストラリアン・ドワーフヒドロコティレ
BIO ウィローモス
アマゾン・チドメグサ
カルダミネ・リラタ
アンブリア
タイガー・バリスネリア
アマゾン・フロッグビット
魚種 :
ネオン・テトラ
サイアミーズ・フライングフォックス
オトシンクルス
ヤマトヌマエビ
幻想の水景をレイアウトで表現するための3つのポイント
自然景観などからインスピレーションを受けるのではなく、頭の中でイメージした幻想的な世界を水槽の中に表現するのが今回のレイアウトのコンセプトとなっている。そこで、水景の印象が幻想的なものになるように、構図、植栽、魚種の選択にそれぞれ創意工夫をこらした。その狙いは一度見たら記憶に残るにも関わらず、そのイメージは抽象的にしか思い出せないような水景である。
①水草の浮遊感を表現する
水中での浮遊感を出すために、チドメグサの仲間をメインに多用。節間が長く、丸みを帯びた葉が水中に漂う様子を演出する。
チドメグサが水底から水面に向かって広がって生長する様子を表現するために、流木の高い位置にも巻き付ける。
②水草の境界線を曖昧にする
同系統の色や形の水草でまとめることで、はっきりとした植栽の境界線をつくらず、水景全体を曖昧な表現にしている。
③光と影の演出でより幻想的にみせる
明るいライトグリーンの水草とは対照的に、暗闇の部分をつくることで水草の葉が浮かび上がって見えるような効果を狙っている。
大きく目を引くような魚種ではなく、あえて小型のネオン・テトラを泳がせた。遠目では小さくて姿が見えにくいが、青と赤のきらめきが水景全体を幻想的に彩る。またポピュラーなイメージもよかった。
制作者の意図を反映するフレキシブルなメンテナンスの裏側
この水景ではチドメグサの仲間を多く使⽤しており、そのほとんどが光を好む陽生⽔草である。⽔草同⼠の共存を図るため、植物全体に光が届くようなメンテナンスを心掛けて管理を⾏った。
適度な摘み取り 【アマゾン・チドメグサ】
創作テーマに幻想的世界観をおいた本⽔景では、浮遊感(フワフワ感)を表現するため活着性⽔草ではないアマゾン・チドメグサを流⽊に巻き付け、ツタのようなイメージで流⽊に沿わせてある。常に流⽊に沿って⽣⻑させる必要があるため、⻑期間でも溶けないテララインを使⽤して、巻き数は少なく、葉がつぶれないように注意した。
流⽊に沿わず、横に飛び出して伸びた葉は、下草や中景部分への光を遮ってしまうため、適度に摘み取りを⾏った。 ⽣⻑するにつれ、アマゾン・チドメグサの茎が流⽊に沿わずに展開したときには、再度巻き直しをすることで景観の⻑期維持に努めた。
テラライン
活着性のない水草を構図素材に沿わせて生長させたい場合などは、モスコットンとは違い、水中で溶けないテララインのほうが適しています。
活着性のない水草を構図素材に沿わせて生長させたい場合などは、モスコットンとは違い、水中で溶けないテララインのほうが適しています。
液体栄養素での管理
水中根を頻繁に出す水草は底床からの養分も必要であるが、根以外からも養分をよく吸収するため、液体栄養素の添加コントロールが重要となる。 特に三大栄養素の一つである窒素は、チドメグサの仲間の生長に大きな影響を与える。 その日の水草の状態を観察し、添加量をこまめに調整することで、レイアウトの構成的な魅⼒を保つように強健に育てると同時に葉色アップで水草の明るい色を保つことを意識した。
グリーンブライティ・ニトロ
生長の鈍化や葉色が薄くなる現象が発生した場合には、窒素分を補う働きを持つグリーンブライティ・ニトロの添加が効果的。
生長の鈍化や葉色が薄くなる現象が発生した場合には、窒素分を補う働きを持つグリーンブライティ・ニトロの添加が効果的。
差し戻し 【アンブリア】
アンブリアは摘み取りやトリミングに弱いため、⾼さが出てきたら差し戻しの管理が必要となる。水草同⼠の境界を明確にせず、自然な感じにみせるために、あえてアンブリアの頂芽はそろえずランダムに差し戻している。つまり頂芽を整える差し戻し方法ではなく、そろえ過ぎないことを意識した管理方法である。他の⽔草の⽣⻑の様⼦を⾒ながら、差し戻しのタイミングを調整することが重要であり、ここでは難しかった。また、アンブリアは縦に伸びやすい⽔草であるが、光が当たらないと矮⼩化して下茎部から溶けてしまうため、⽔⾯付近のアマゾン・フロッグピットやアマゾン・チドメグサの間引きをこまめに行う必要もあった。
プロピンセット L
先端が細く、入り組んだ構成の中でもスムーズに作業が行えます。 レイアウター必携の1本です。
先端が細く、入り組んだ構成の中でもスムーズに作業が行えます。 レイアウター必携の1本です。
植栽の裏ワザ 【ウォーターローン】
水景全体がライトグリーンで統一された中、ひときわ明るい印象を与えている水草がウォーターローンである。ウォーターローンの旺盛な生長により前景と中景がボーダーレス化し、曖昧さを表現することにつながっている。そのウォーターローンをいち早く一面に繁茂させるには、植栽初期にグロッソスティグマを混栽する手法があるのでここで紹介しておきたい。貧栄養下で育つ傾向のあるウォーターローンは、栄養分が多く含まれる新品のアマゾニアなどでは、育成に手を焼くことがある。そこで、グロッソスティグマを混栽することにより余分な栄養分を吸収してもらい、ウォーターローンの生長しやすい環境を整えるという方法である。ウォーターローンが貧栄養下で育つのに対して栄養分を必要とするグロッソスティグマはだんだんと弱まっていき、混栽しても時間が経つにつれウォーターローンがグロッソスティグマを覆いつくすように繁茂していくようになる。また、栄養分のコントロールがしやすいアマゾニア ver.2の使用も有効的である。
ウォーターローンとグロッソスティグマの混栽術
井上 大輔が語る発案から完成までの思考プロセスと目指している水景のあり方
水景をつくるうえで一般的には、川や山、海などの自然の風景に着目して水槽内に落とし込むことがセオリーと言われています。しかしそうしたアプローチだけでは写実的な表現に偏ったり、ステレオタイプの表現に陥りやすくオリジナリティがなくなってしまう場合があります。そこで自分なりの個性的な水景をつくるために、コンセプトやテーマを決めて、そこからイメージを頭の中で膨らませ、これらを構図、水草、魚などに順次置き換えてレイアウト構成を具体化していきます。
今回の水景のコンセプトである「幻想的」とは風景などとは違い実際に見えるものではなく、「架空」や「夢のような」、「現実味がない」、「目を疑う」などのイメージ表現の一部なので、形もなければお手本もありません。イメージを形にすることはとても難しく、それを具現化するには時間がかかりました。
私が制作した水景は、よく奇抜と言われることがありますが、あえて奇抜につくっている訳ではなく表現したいものを制作しようと追求した結果、一般的なつくり方ではなくなることがあるだけなのです。これにより好みが分かれる水景になってしまうこともありますが、基本的にはネイチャーアクアリウムの概念である「自然の再現」や「自然を切り抜いたような水景」を意識しています。また、私は自分がつくる水景を作品とは呼ばないようにしています。なぜなら水景クリエイターとして制作する際に、作品をつくり込もうと考えてしまうと、配石や流木の置き方が工作的になってしまうためです。作品として評価されるものではなく、少しでも自然の美しさや力強さ、大切さなどについて考えるきっかけとなる水景を個人的には目指して制作しています。 (井上)
作例から読み解くイメージを表現するためのレイアウト構成術
ここでは引き続き個性派表現にこだわる水景クリエーターの井上 大輔に印象的な2つの水景の制作過程を振り返ってもらった。特有のイマジネーションの世界は、決してインパクトや奇をてらったものではなくあくまで純粋。そんなところにも井上のつくる水景の魅力の秘密がありそうだ。
悠久と生命力
この水景のテーマは「悠久と生命力」であり、それを表現するために構図、水草、魚種を模索していきました。 樹齢千年を超える屋久杉を思い浮かべ、障害物や岩を避けて根を伸ばす姿をイメージし、大きく曲がりくねったホーンウッドを使用しました。 さらにそれら周りに山水石を配置し、大樹の根が絡まり合う姿を表現したつもりです。
「悠久」の表現としては、古木の苔生した姿を表すため、ウィローモスを流木全体に活着させうっそうとした雰囲気をつくっています。さらに耐陰性の強い植物が多い林床をイメージし、比較的濃い緑色のコブラグラスやタイガー・バリスネリアを使用。「生命力」の表現としては、明るく鮮やかな色彩のロターラ・マクランドラなどの有茎草を使い、植物のみずみずしさと繁殖力が感じられるように工夫しました。また、オーストラリアン・ヒドロコティレをモスを巻いた山水石の間に配置することで、ランナーがウィローモスの上をはうように生長し、古木や岩に絡みつくツル植物のような旺盛な繁殖力を感じさせる狙いがありました。魚種は原始的な森のイメージに合わせるため、華やかな魚ではなくあえて銀鱗輝くジャイアント・ダニオを選択。 古くからそこにあり続けている自然の姿を「悠久」、何もなかったところから新たに誕生する自然の姿を「生命力」として、異なる時の流れの中でたくさんの生命が共存していく姿を表現しています。(井上)
太古の世界
ネイチャーアクアリウムでは山や川などの自然風景から着想を得てレイアウトをつくるのが一般的ですが、この水景では空想画や映画でしか見ることができない時代の風景をイメージから形にしています。そのテーマとした時代は、今からおよそ2億年前に始まったとされるジュラ紀。巨大なシダ植物が生い茂り、恐竜たちが闊歩していた太古の時代を表現したレイアウトです。
制作を始めるにあたり、構図、水草、魚種の3つの要素をそれぞれどのようにジュラ紀のイメージに近づけるかを考えました。構図の骨格となる流木は、風化した木の表面から時の流れを感じられるように、レイアウトで使い古されたホーンウッドを用いています。そして化石が発掘されそうな堆積岩の雰囲気を出すには、渓石が最適でした。また大地の地割れを表現するために厚みのない渓石を化粧砂の上に並べたのですが、その配置する作業は楽しくもありました。水草は形を変化させずに進化してきたとされるシダ類やモスなどに加え、葉の色や形が特徴的なアヌビアス・コーヒーフォリア、原始的なイメージが感じられるラヌンクルス・イヌンダタスなどのユニークな水草を積極的に使用しました。一般的な水草レイアウトではあまり使われない水草を配置することで、見慣れない世界=見たことのない時代を表現したつもりです。魚種についてはガラスのように透けた体を持つインディアン・グラスフィッシュや、恐竜のイメージにも似たクテノプス・ノビリスなど風変わりな姿や泳ぎ方に特徴がある魚種でまとめたことで不可思議な雰囲気も演出できたと思っています。 (井上)
井上 大輔
ADAの水景クリエイターの中では、既成概念にとらわれない個性的な水景表現に定評がある。 まずはコンセプトありき。
ADAの水景クリエイターの中では、既成概念にとらわれない個性的な水景表現に定評がある。 まずはコンセプトありき。