時間の経過と自然感を演出した幽玄の水景

［ 枯淡の趣 ］ 水草の葉には、さまざまな色や形のものがある。ネイチャーアクアリウムでは、それらの色や形、生長スピードが異なる水草がせめぎ合いながらも混ざり合うことで自然感が演出されていく。特にミクロソラムやボルビティスなどのシダの仲間が葉を茂らせた姿からは、悠久の時間とともに幽玄な雰囲気を感じることができる。この水景では、それらの表現を多用することで、シンプルな凹型構図の中に時間の経過と自然感の演出をテーマにしている。

DATA

撮影日：2020年4月28日（ADA）
制作：越智 隼人（レイアウト制作・文）
水槽：キューブガーデン　W180×D60×H60（cm）
照明：ソーラーRGB ×3（1日8時間30分点灯）
ろ過：スーパージェットフィルターES-2400(バイオリオL)
素材：ブランチウッド、山水石
底床：アクアソイル-アマゾニア Ver.2、パワーサンド・アドバンスL、バクター100、
クリアスーパー、トルマリンBC
CO₂：パレングラス・ビートル50Ø、CO₂ビートルカウンターで1秒に10滴（タワー使用）
AIR：リリィパイプP-6によるエアレーション　夜間消灯時15時間30分
添加剤：ブライティK、グリーンブライティ・ミネラル、グリーンブライティ・ニトロ
換水：1週間に1度　1/2
水質：水温24℃　pH：5.8　TH：20mg/L

水草：
ミクロソラム・トライデント
ボルビティス・ヒュデロッティ
ロターラsp．福建省
ロターラsp．インレー
ロターラsp．スパイキー
ロターラ・マクランドラ・シモガ
佗び草 ルドウィジア・グランデュローサ
佗び草 ハイグロフィラ・ポリスペルマ
BIO ロターラsp．ワヤナード
BIO ロターラsp．Hra
BIO ロターラ・ナンセアン
BIO エキノドルス・テネルス
BIO ニードルリーフ・ルドウィジア
BIO ミリオフィラム・マットグロッセンセ
BIO ブリクサ・ショートリーフ
BIO オーストラリアン・ヒドロトコティレ
BIO アヌビアス・ナナ
BIO アヌビアス・ナナ プチ
BIO グロッソスティグマ
BIO ウィローモス

魚種
ダイヤモンド・テトラ
レッド・テトラ
カージナル・テトラ
インパイクティス・ケリー
ダイヤモンド・ペレズ・テトラ
ディグロッソス・マクラータス
サイアミーズ・フライングフォックス
オトシンクルス
ヤマトヌマエビ

水草と魚が織りなす幽玄の水景
「幽玄」という言葉には陰のイメージがあるかもしれないが、本来は趣深い様子を表す言葉である。私には、陰生水草と陽生水草が混ざり合い、そこに多種多様な魚が共存する水景こそ、幽玄に感じられる。

 

常に心がけている天野 尚の言葉「大胆かつ繊細に」

レイアウトをつくる際、私は天野がよく言っていた「大胆かつ繊細に」という言葉を常に心がけている。この水景でも、構図骨格となる流木や石はシンプルかつ大胆に配置し、水草は葉のサイズや色合いを考慮して繊細に配植することで水景を大きく見せている。また、水草が生い茂ることで左右の流木につながりができることを想定し、右から左にかけて倒れた一連の倒木のように流木を配置した。惜しむらくは、レイアウトの制作から約半年での撮影だったため、ミクロソラム・トライデントやボルビティス・ヒュデロッティといったシダ類の株に若さが見られる点である。さらに時間をかけ維持することで、流木とこれらのシダ類の株がなじみ、より迫力のある水景となったことだろう。

植栽直後のレイアウト／2019年11月28日 撮影

 

①大胆に組んだ構図骨格
石や水槽の縁も利用し、流木を大胆に組んで構図骨格をつくった。幽玄な雰囲気を出すため、ポイントで流木にモスをつけ、シダ類を多用して時間の経過を演出した。

 

②イベントを考慮した水草の変更
この水景は、大阪のイベントで展示する予定だったため、搬送時のストレスを考慮し、一度植栽した中景のクリプトコリネをブリクサ・ショートリーフに変更している。

 

③多様な有茎草を繊細に植栽
自然界の植物の多様性を表現するため、ロターラsp. インレーやロターラsp. スパイキーなど、これまでの水景にあまり使われてこなかった有茎草を積極的に用いた。

 

液体栄養素の活用
有茎草を美しく育てるには、液体栄養素の添加が欠かせない。この水景では、以下の液体栄養素を添加。グリーンブライティ・ニトロにはリンが含まれておらず、窒素を重点的に与えたい時に重宝する。

 

④アヌビアスに植栽を変更
この部分にも当初はクリプトコリネを植栽していたが、搬入時のストレスで葉が溶ける心配があったため、同じサトイモ科でもより丈夫なアヌビアスに植栽を変更した。