ADAスモールトーク #14 「渓流に根づく天鵞絨(ビロード)」
気品のある植物。私がその存在を知ったとき、野生味あふれる姿こそが植物の姿であるという考えは一瞬にして覆りました。地理的隔離により多数の表現型が存在しているためコレクション性も非常に高いホマロメナですが、今回はホマロメナ・フミリスレッドについてご紹介します。
ホマロメナ・フミリスレッドはカリマンタン島やスマトラ島などに分布し、おもに熱帯雨林の渓流沿いに生息しています。
岩場に固着することも可能ですが、土壌での育成では発根や葉の展開が早く、葉の表面の状態も良好なことから本来の生息地は林床である可能性が高いようです。
岩場に固着することも可能ですが、土壌での育成では発根や葉の展開が早く、葉の表面の状態も良好なことから本来の生息地は林床である可能性が高いようです。
本種の最大の特徴は、なんといっても高級感漂う独特な葉姿でしょう。深緑をベースに紅と白のハイライトがさりげなく入り、葉の表面にある微細な毛が上品さを醸し出すビロードのような質感をつくり出しています。そんな奥ゆかしさを感じる葉姿ですが、芽吹き始めた新芽は紅一色であり、そこに自然界を生き抜く工夫が隠されています。新芽の色の正体は赤い色素であるアントシアニンによるもので、この色素は抗菌作用や虫の幼虫を寄せつけない作用などがあると考えられています。また、低温環境下では葉緑体の光合成能が低下し強光ストレスを受けやすくなるため、アントシアニンが太陽光のフィルターとして機能し、発達中の葉緑体を紫外線から守る働きをもつことも知られています。本種は新芽の時期にアントシアニンが合成されることで葉を守りますが、皆さんもご存知の「紅葉」という生理現象が起きる際にも落葉の時期に葉を守るためにこの色素が合成されているのです。
上品な見た目とは裏腹に強健な種であり、育成難易度はそれほど高くない印象です。多湿な環境を好むため高湿度を維持できるガラスケース内での育成はもちろん、しっかりと根が張って状態が安定した株であれば常湿化も可能なため、パルダリウムやアクアテラリウムなどでフレキシブルに活躍してくれることでしょう。ぜひ、気品高い葉姿の魅力に浸ってみてはいかがでしょうか。