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CREATOR WORKS [ ヒーリング・ブッシュ ]

aquajournaljpアクア・ジャーナル編集部
ⒸAQUA DESIGN AMANO
[ ヒーリング・ブッシュ ] 構図骨格は極力シンプルに組んで、そこにHyg.ピンナティフィダを活着させ、背景の有茎草の生長の勢いに任せてアボリジナルアートのような表現を試みた。各種水草の色彩が入り混じり、水槽の四隅を埋め尽くす様子は狙い通りであった。
植栽 2023年1月30日撮影
完成 2023年03月29日撮影
DATA
制作日:2023年1月30日
撮影日:2023年3月29日
制作:内田 成(ADA SUIKEI CREATOR)
水槽:キューブガーデン W1,200×D500×H500(mm)
照明:ソーラーRGB ×2(1日8時間30分点灯)
ろ過:スーパージェットフィルター ES-1200(バイオリオG)
素材:山谷石、ホーンウッド
底床:アクアソイル-アマゾニア Ver.2、パワーサンド・アドバンスM、
バクター100、クリアスーパー、トルマリンBC
CO2:パレングラス・ビートル 40Ø、CO₂ビートルカウンターで1秒に5滴(タワー使用)
AIR:リリィパイプP-6によるエアレーション 夜間消灯時15時間30分
添加剤:ブライティK、グリーンブライティ・ミネラル、グリーンブライティ・アイアン、グリーンブライティ・ニトロ
換水:1週間に1度 1/3
水質:水温25℃ pH:6.4 TH:50mg/L

水草:
1 ロターラ sp.Hra(BIO)※
2 ロターラ・ロトンジフォリア 福建省
3 ロターラsp.レディッシュ
4 ロターラsp.フラワー
5 グリーンロターラ(BIO)※
6 セイロンロターラ(BIO)※
7 ハイグロフィラ・ポリスペルマ(BIO)※
8 ハイグロフィラ・ピンナティフィダ(BIO)※
9 ルドウィジア・イールトリコロール
10 ルドウィジア・スーパーレッド
11 ルドウィジア・ブレビペス
12 ルドウィジア・グランデュローサ
13 ニードルリーフルドウィジア(BIO)※
14 イエローアマニア
15 ポゴステモン・デカネンシス
16 ニューオランダプラント
17 アルテルナンテラ リラキナ
18 ウォーターバコパ
19 パールグラス(BIO)※
20 スタウロギネ・レペンス(BIO)※
21 ショートヘアーグラス(BIO)※
22 ピグミーマッシュルーム(BIO)※
23 グロッソスティグマ(BIO)※
24 ウィローモス(モスバッグ)※

魚種
メラノタエニア・カマカ
メラノタエニア・サフレンシス
キラセリナ・センタニエンシス
サイヤミーズフライングフォックス
オトシンクルス
ヤマトヌマエビ

ⒸAQUA DESIGN AMANO
※はADA生体製品ラインナップです。

SUIKEI CREATOR INTERVIEW


内田 成 Naru Uchida
アボリジナルアートに感化された水景表現

- 今回の水景制作ではオーストラリア旅行が刺激になったとお聞きしましたが、詳しく聞かせてください。

2022年の暮れにプライベートでオーストラリア旅行に行ってきました。そのときに中央砂漠に行く機会があり、有名な景色ですと世界最大級の一枚岩として知られているエアーズロックやカタジュタです。地球のへそとも言われている大きな岩盤があり赤く乾いた大地が広がっていました。そこで見た草木が芽吹いてる世界。砂漠なので乾燥した荒涼なイメージを持っていたのですが、実際に行ってみると生命が芽吹く姿やたくさんの動植物を観察することができました。そういう世界をネイチャーアクアリウムにうまく落とし込めないかというちょっと遊び心からスタートした水景制作でした。

- そうしたオーストラリアの自然のイメージをどのようにして水景に取り込んだのでしょうか。

オーストラリアでは先住民族(アボリジニ)のアートとしてアボリジナルアートが知られていますが、、その制作プロセスとして自然の要素(情報)を取り入れるということがあるのです。たとえばカンガルーが生息しているエリアはどこかとか、水源はどこかとか、雨をしのぐ場所はどこかみたいなものが、一つの絵の中に情報として隠されてるのです。我々が見るとただの絵に見えるのですが、アボリジニの方々からするとそれが地図に見えたりし、自分たちの生きるために必要な情報が絵に詰まっているらしいのです。そうした自然から得た要素を自分でデフォルメして絵として描く作業が、ネイチャーアクアリウムの制作プロセスととても似ていると感じました。また砂漠から水景のインスピレーションを受けるって面白いじゃないですか(笑)。

- 話を聞いているとオーストラリアにかなり思い入れがありますね。

そうですね。私の叔母がアボリジナルアートに関わる仕事をしているんです。私が小学生のときにそのアボリジニのアーティストが茨城の実家に来て、目の前で絵を描いてくれました。そのときの絵は、今私が住んでいる部屋に飾ってあるのですが、子供のころは砂漠に住んでる人がどうしてこんなに色彩豊かで美しい絵を描けるのか不思議に思ってました(笑)。でも実際にオーストラリアの砂漠に行ってみるとその理由がわかった気がしました。砂漠でもスコールみたいな雨もしっかり降りますし、川や湖もあるし、草木も生い茂っていました。そんな実際の景色を自分の目で見たときに子供のころから見ていたアボリジニの絵の疑問が解けたという不思議な感覚を覚えました。自然から得たモチーフというかエッセンスをキャンバスとか水槽に人間のエネルギーで吹き込むという点で共通した感覚があり、水景クリエイターとして新しい挑戦をしてみたくなりました。

- たとえばそうした別ジャンルのアートから影響を受けることで水景制作にはどう作用してくるのでしょうか。

別に悪いわけではないですが、優れた水景作品に感化されて制作しただけの水景って平凡になってしまうんですよ、少なくとも私の場合は。確かに上手くレイアウトはできるのですが、それ以上にはなりません。でもその人の今までの体験、たとえば絵画に感動したとか、料理が美味しかったとか、音楽が心地よかったとか、そうした自分の中の感情を上手くネイチャーアクアリウムの世界に落とし込めたら、自分しか表現できない世界観が生まれるのではないかと思っています。もちろん自然での体験は最もレイアウト表現に結びつきやすいと思いますが、それに加えていろいろなジャンルのアートに触れることはいい刺激になると思っています。何でも最初は模倣から入ると思うのですが、ある程度経験を積めば上手なものって誰でもつくれるようになります。しかし、そこから先に本当の難しさがあるのです。自分らしさというか人間性が備わっていることが、作品の価値になるのではないか、と近頃思うようになりました。

- 水景クリエイターの方々の作品を見ると、人間性というか個性が出ているな、と感じることがありますね。

そうですか。我々はADAの水景クリエイターとして、やはりアート的な要素も水景表現の中に必要だと思っています。また今は5人いるので、作家性というかそれぞれの個性も必要です。そのため今回のアボリジナルアートからエッセンスをいただいたように自分にしかできない制作アプローチを確立していくこともこれからの課題であり、さらに追求していきたいと思っています。

- では具体的なレイアウト構成についてですが、この作品では構図素材がほとんど見えないようになっていますが、そこは狙ったものなのでしょうか。

これについては水草の力に任せようと狙ったもので、構図はできるだけシンプルにして水草たちが最終的に水槽の四隅を埋め尽くしていくような水草の勢い、生命力を表現できればと思いました。
構図 2023年1月30日撮影
- 水草ではHyg.ピンナティフィダの印象が強いですが、流木にはどう配置したのでしょうか。何か作為的な意図などはあったのでしょうか。

構図骨格は3本の直線的なホーンウッドを使って、若干角度をそれぞれ左右広い範囲で散らしているのですが、ここに着生植物が繁茂してるというイメージを持って構図を組んでいます。その着生の法則性ができるだけ作為的にならないかという点が難しいところですが、構図を組むときに着生させる水草の特徴や生長方向などをしっかり考えて制作する必要があります。こうしてHyg.ピンナティフィダを着生させることによって、その着生の様子からも一つの世界観が生まれるものだと思います。また長期維持のことを考えると構図はできるだけシンプルに安定した状態で組むことが大切です。これがしっかりできていないと最初の半年はすごくきれいですが、それ以降は水景が崩れていってしまいます。安定した構図とそこに着生させた水草が将来殖えたときの様子を私はイメージして制作しています。

- では中景から背景の色彩とそのバランスについて教えてください。

一般に有茎草はきれいに区分けして植栽しますが、ここではあえて混ざり合うことを想定して植栽を行いました。なぜかと言うと、全体を引いて見たときに何色でもない色にしたかったからです。いろいろな絵の具をパレットの中で混ぜたようなイメージです。そしてトリミングを繰り返していくと、徐々に植栽した水草たちが自然と混ざり合っていきます。10種類ぐらいの有形草を使っているのですが、いろいろな水草が点在して個々の印象を感じにくいというか、何色でもない感じにしたいと思っていました。トリミングをする度に水草の混じり合う色彩が変化し、それが自分が予想もしなかった混ざり方をすると面白いですし水草の力を感じます。こうした印象が抽象画のアボリジナルアートの世界のような雰囲気をつくってくれて狙い通りになったと思っています。
有茎草の植栽は制作コンセプトに従い色が混ざり合うようにあえて区分けせず植栽。
Hyg.ピンナティフィダは、生長方向を確認しテララインでしっかりと固定した。
- メンテナンスでは難しい点はなかったのでしょうか。

やはりトリミングでしたね。この水景ではトリミングラインを描くようなカットの仕方ではなくて、ルドウィジアやバコパなどはその頂芽を狙って摘み取るようなカットを行ったり、その都度水草の種類や状態を見ながらカットの仕方を変えていました。そうして管理をしていくと、各種有茎草の全体のバランスが比較的均等化というか落ち着いていくのです。ただ有茎草の混じり具合とかその全体のバランスというのは明確に決まったものではなく、私の感覚による部分が大きいためメンテナンスを担当してくれるスタッフとその感覚を共有するのが難しかったと思います。また撮影を行った段階の水景状態も制作時には完全にイメージできていたわけではありませんが、イメージし過ぎるのも良くないと思っていました。水景を管理していく中では、藻類が発生したり、水が濁ったりと予期しないマイナス要因もあるわけですが、水草の予期しない生長の仕方などはプラス要因でありワクワクしますね。今回の水景では予期しないというか予想を超えた水草の生長があって、私の中では大切な作品の一つとなりました。これからもオリジナリティの高い表現を獲得するために自分の世界観を大切に水景制作に取り組んでいきたいと思っています。

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