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Amano考 —ガラスの中の大自然— 第7回

aquajournaljpアクア・ジャーナル編集部
Amano考では、1992年に出版された天野尚 水草レイアウト作品集『ガラスの中の大自然』で天野が綴ったエッセイを再掲載しています。ネイチャーアクアリウム作品のバックボーンとなる天野尚ならではの自然観や経験に触れることができます。

「アフリカへの想い」


キリマンジャロの裾野に広がるアンボセリ動物保護区では、ライオンをはじめヒョウ、チーター、サイなどがケニア政府の手厚い保護を受けている。私は東アフリカでこの保護区が最も気に入っている。キリマンジャロが東側にあるため、朝日が昇る光景を眺めることができるからだ。草原に遊ぶシマウマやキリンなどの背景によくキリマンジャロが映った写真があるが、これらはアンボセリ動物保護区で撮影したもので、いわゆる絵になりやすい最もアフリカらしい場所でもある。

この保護区には沢山のロッジがあるが、全て風景にマッチして作られており、美観を損なうような建物は1つもない。それでいて一様にセンスがいい。ただ夜になると窓ガラスにいくつかのトカゲが張りついてくる。これは明りに集まる小さな虫を捕食しに来るのだが、気の弱い人なら卒倒しそうな奇妙な面構えのヤツもいる。 だいたいどこのロッジでも動物を集めるために人工池があるが、私が最初に宿泊したロッジは安かったためか、人工池どころか人間用の風呂やシャワーもなく、ベッド以外は全て露天という実にアフリカ的なロッジであった。 2軒目のロッジは少し高かったため、シャワーも人工池もあった。

動物たちは乾期になると、水を飲んだり水浴びをする場が無くなるので皆ここに集まる。面白いことに、種により集まる時間が別々で、暗黙の了解でもあるかのようだ。夕方のゴールデンタイムに集まるのはゾウやライオンなどの強い動物で、完全な夜行性のものや珍しい動物などは皆が寝静まった頃に集まってくる。そこでこのロッジではアニマルコールなるものをサービスしている。自分が見たい動物を事前にボーイに頼んでおけば、お目当ての動物が水浴びにくるとそっと起こしてくれるという、誠にサービス精神旺盛なロッジなのだ。 ある日私は、ヒョウが見たくてアニマルコールしていたのだが、真夜中、猛々しい猛獣の声に目が覚めた。アンボセリ一帯に鳴り響く雷のような雄叫びである。このような声を張り上げる動物がこの世に存在したのかと真面目に考えた。ところが、よく耳を凝らして聞いていると声の主は意外と近い。さらに耳を凝らして聞くと、何のことはない、となりの米国人のいびきではないか。おかげで、お目当てのヒョウは恐れをなしてかロッジに近寄ろうとはしなかった。

このロッジで数々の野生動物が夜、池に水を飲みにくるシーンを見たが、同じ動物でも昼間の動作に比べて何故か神秘的である。ライオン1つ例にとっても、密林にいる時、草原にいる時、水辺にいる時、もちろん夜間の行動を取っても、皆それぞれに異なる。これら動物たちが、その環境に合わせてとる行動をよく観察すると鳥も、魚も、ハ虫類も皆同じである。弱い動物たちは、見晴らしのいい草原にいる時は肉食獣から身を守るため群れるのだ。そしてまた草原に群れる姿が最も絵になる。「草原に群れる」私の往年のテーマはこうしたアフリカの光景を少なからずヒントにしている。

 

1992年出版 天野 尚 水草レイアウト作品集『ガラスの中の大自然』 (マリン企画)より

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