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FIELD REPORT -自然からのヒントを探して-

aquajournaljpアクア・ジャーナル編集部
ADAの水景クリエイターの中でも足繁く近郊のフィールドに通っている本間裕介が、新潟県村上市にある三面川の渓流に足を運んだ。このフィールドは、本間が数年間定期的に通い、時間の経過によって変化する自然の表情を追って撮影を続けているポイントである。メンバーは本間と、ネイチャークリエーション部(以下NAC)の柴田と滝沢の3名。NACとは、自然から学んだことを表現し、新たな創造力を生み出すことを目標とする部署として本間が命名したものであり、メンバーは水景の制作管理の最前線で活動をしている。今回はイベント準備に追われる中での自然観察となったが、自然の中に身を置くことでリフレッシュもできた。これもまた自然の力であり、自然から学ぶことはレイアウトのヒントだけではなさそうである。
今回訪れた三面川の渓流。深い森と大きな石に囲まれて流れる澄んだ水が、自然の力強さと繊細さを感じさせてくれた。
(撮影地/新潟県 村上市)

自然のしたたかさを学ぶ


無類の生き物好きが集まるNACのメンバーにとって、森や川はさまざまな生物を見て触れてその自然の多様性を学ぶ絶好のスポットだが、今回の観察地周辺の険しさは想像以上で、優しく楽しい森のイメージとは違っていた。目的の場所にたどり着くために、持参したロープを木に括り付けてそれを伝いながら急な斜面を下りなければならなかった。大自然に足を踏み入れヒントをもらうことは、言ってしまえば自然をイメージに変換して持ち帰ることになるため、それ相応の苦労が対価として必要だと痛感した。斜面は柔らかい土とガレ場が混ざり合っていて、一度足を踏み外しでもすれば目的の渓流まで一瞬で転がり落ちそうなほどだった。周りの景色を見る余裕もなく恐怖を感じながらゆっくりと丁寧にロープを固く握りしめて下った。斜面を下りきって出会った三面川上流の風景は、そんな苦労を吹き飛ばすかのようにどっしりと構え、私たちを迎えてくれた。
植物ごとの生息環境にはしっかりと違いがあり、それぞれの好む環境で健康に大きく生長している。
人の手が入っていない大自然は純粋無垢の美しさで森特有の空気感を覚えた。古木は折れて流され、そこに新しい芽が吹いたりと、日々動き、生と死が繰り返されている。現地で出会った植物は狭い範囲でもそれぞれの住みやすい環境に根を張って生活していて、その数が少ないからといって淘汰されることなく、その生活域をうまく住み分けて共存しているようだった。普段も水草レイアウトのヒントを探しに渓流に出掛けることがあるのだが、今回は意見交換のできるメンバーが一緒にいたため、その感動を共有できたことはとても大きかった。(柴田)
長い時間がつくり出した石の形や配石に心惹かれました。石や流木の向きなどは、水の流れの影響を受けていることがよくわかり、レイアウト表現にも活かせそうだなと思いました。(撮影:柴田 康文)
柴田 康文
リスボン海洋水族館で培った豊富な経験を活かし、現在はNACを引っ張るお兄さん的存在。休日にはキャンプやBBQを通して自然と触れ合っている。だが虫が少し苦手。

初めての自然体験


釣り好きの私だが渓流というフィールドに出た経験はほとんどない。なので今回の企画は楽しみな気持ちと不安に思う気持ちが半々だった。それでもできる限りの準備を行い、いざ沢に下りたとき今まで経験したことのない不思議な感覚を覚えた。下は陰生植物が覆いつくし、上を見ると高いところに木々の葉が日の光を遮っておりその2つに挟まれた空間に私は立っている。空気はとても澄んでいるのだが、湿度を含んでおり吸い込んだ空気が重く感じられる。目で、鼻で、肌でその独特なしっとりと重厚な感覚を得ることができた。木々も、渓流の岩も繊細な情報であふれているのだが、よく見ると種類や形は意外にシンプルなことに気づいた。空を覆い隠す木々はどれも大きいが種類は片手で数えられるほどに少ない。トチノキ、カツラ、サワグルミ、調べてみるとどの木も水の豊富な土地を好むようだ。
水から遠い位置にある岩の上には 比較的乾燥に強いハイゴケの仲間が着生していた。
足元のシダやコケ類も日の光をあまり必要としない種類がほとんどで、成るべくしてこの風景は成り立っていることを実感した。その中でも特にカツラという木には興味を惹かれた。葉が丸く細かいため他の木々に比べて繊細な印象を与えている。また、時折差し込む日の光と渓谷をやさしく吹き抜ける風に揺られる葉は、さながら緑色のステンドグラスのように見えた。渓谷にあるカツラの木は巨木化し幹に苔が付いているものが多く、長い年月がそこにあることを見るだけで理解できる。朽ちて途中から折れた痕跡があるものも多かったが大抵折れた箇所から新しい芽が伸びており、潤沢な水分と川が運んでくる豊富な養分によってたとえ折れてもそこからまた生きようとする力強さに魅了された。実際にこのような場所に出掛けることでこんなにも沢山の気付きがあるのかと、改めて感じることができた。写真や言葉だけでは伝わらない大切なことを肌で感じることができたことは大きな収穫だった。(滝沢)
倒木が朽ちたり、苔むす様子にイマジネーションが刺激されました。また初夏ということもあり、木々の葉は鮮やかな緑色でキラキラと輝き、森は生命感にあふれていました。(撮影:滝沢 瑞生)
滝沢 瑞生
昆虫と水生生物をこよなく愛するNAC随一のパワー系。大きな体と優しい笑顔でメンテナンス業務に励む。愛車はデリカ。

自然の中で、語らう。


本間 三面川上流は自分は何度も通っているフィールドだけど、今回2人は初めてだよね。いろいろ感じたことがあると思うけどどうでした?

柴田 そうですね、まず序盤のロープで急斜面を下りていく所から緊張感が走りました(笑)。実際に沢に下りて観察していく中で膨大な時間をかけて朽ちていった木をたくさん見ましたが、レイアウトイメージが膨らみますよね。他にはシダの生える場所やコケの種類と石への着生の様子が印象に残っています。より近くに寄って触れることで、今まで知らなかった小さな植物の世界を少し知ることができた気がします。水槽内で時間の経過を表現する際にシダ類やコケを使いますが、それを実際に目で見て観察したことでシダやコケなどを使う理由が腑に落ちたところがあります。

滝沢 確かに、実際にフィールドに来ないと感じられないことがたくさんありましたね。本間さんは頻繁に自然に身を置いてさまざまなことを感じながら水景を制作していると思いますが、大切なことはその具体的なレイアウト表現だけではなく、沢に降りたときの湿気を帯びた空気の重さや匂いなど感覚も水景の雰囲気に影響を与えるのではないでしょうか。

本間 そうだね、実際に見て感じるフィーリングも大切なことだね。特に今回来たこの場所はもう5〜6年くらい通っている場所なんだけど、来るたびに学ぶことがあるし新しい発見があるんだよね。常に変化している自然の風景との一期一会を大切にしたいと思っているし、それを上手く写真で記録して保存するようにしているんだ。写真を撮るときも、なぜこの岩は魅力的なのか、この倒木に迫力を感じるのか自分なりに考えて分析しているんだよ。そうしながら自分の中にインプットして表現したいなって思ったときに水景に落とし込んだりしているんだ。

滝沢 そうなんですね。この角度で写真を撮ると迫力が出る、手前のコケを入れて撮ると遠近感が出る、など写真撮影のことを直接教わった経験によって風景の見方も少し変わった気がします。

柴田 やっぱり、こういうフィールドに来て感じたことを大切にしたい気持ちにもなりますね。仕事にも活かせればなおいいですけど。水景は制作するにせよ、管理するにせよ、ある種ADAの中で共有する自然観って重要だと思うんです。そこに到達して初めてよりレベルの高い仕事ができるようになるんじゃないかって思いますね。

本間 それには多くの自然体験が必要で自分の目で見たこと肌で感じたことが本当に大切。普段水草や生き物に関わる仕事をしている立場だから自然のことはたくさん知ってもらいたいと思う。そして学んだことを今後の活動に活かせたら一番いいよね!
フィールドで学び、話し合うことでより深い所で自然を感じることができた。

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