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AOAO SAPPORO REPORT 02

aquajournaljpアクア・ジャーナル編集部

「水中の光合成シーンは生態系の基本を教えてくれる」


ADA水景クリエイター 本間 裕介
AOAO SAPPOROプロジェクトの企画時から観賞空間の広さが印象的で、まるで美術館と水族館が融合したかのような雰囲気でネイチャーアクアリウム(以下NA)との相性がとても良いと感じました。制作にあたってはNAから生態系の循環を学べるようなレイアウトを目指しました。水草が二酸化炭素を吸収し、光合成によって生み出された酸素で魚が呼吸します。魚のフンはバクテリアが分解し水草の養分になります。今回はその中でも光合成にスポットを当ててリシアという水草を選びました。
光合成によって酸素の気泡をつけたリシアとカージナルテトラの群泳が輝く。
「風薫る石景」は、幅7mもの水槽で八海石を用いた石組レイアウトで挑戦的なものでした。さらに巨大水槽でのリシアの育成管理は難しく、構想段階から長期における維持管理ができるのかという管理チームのプレッシャーもありましたが、このパノラマ水槽をリシアの気泡でいっぱいにして来館者の方に見たことのない水中シーンを見ていただきたいという強い思いから、リシアを配植することを決意しました。無情にも、その決意を打ち砕くかのように思い通りに気泡が付かない毎日でした。しかし、過去に天野の撮影に同行した際、自生していたリシアが水深1m近くでも気泡を付けていたのを見たことがあり、そのときの状況や会話などを思い出しながら必ず再現できるはずとシステムを見直すことにしました。それから試行錯誤を続け、CO2添加の効率化や液体栄養素の添加量の微調整を行い、点滴のように少量ずつ長時間にわたって添加することで水質にムラが少ないよう環境を整えました。特に一番重要だったのが水流でした。4つある出水パイプをわずかに調整することで、前景全体に適度な水流が当たるようにしました。はじめは部分的だったリシアの気泡も今では全体的に付き水景を輝かせています。他に光合成を視覚的に観察できるのが「光と睡蓮の庭」です。スイレンの浮葉は強光を受けて盛んに光合成を行うため、つくられた一部の酸素が葉の裏に気泡となって溜まる様子が見られます。葉面を見下ろす観賞が一般的なスイレンを、水底から見上げるような独特の視点で水中ならではの魅力を伝えたいと思いました。NAの仕組みや作品コンセプトもぜひ知って欲しいところですが、まずは水草の美しい姿を通して自然への関心、興味を持っていただけたらと思います。
スイレンの浮葉の下ではパールグラミーがよく群れている。悠々と泳ぐ姿は見ていて癒される。

「見えない管理作業の緻密さは水景の美しさとして見えてくる」


ADA水景クリエイター 内田 成
私の入社前の話になるのですが、ADAのネイチャーアクアリウム(以下、NA)を初めて見たとき、美しく繁茂した色鮮やかな有茎草にとても感動しました。今回制作した「水底の紅葉」はNAエリアの順路上、来館者の方が最初にご覧になる水槽になります。初めてNAを見る来館者の方にも水草本来の鮮やかさや美しさを感じてもらいたいと思い、基本に忠実な構図構成でふんだんに有茎草を植栽して、日本独特の自然に対する美意識や四季の表情を織り交ぜた水景を目指しました。<紅葉スタイル>と自称していますが、趣味である風景撮影で赴いた先々の美しい紅葉の景観から着想を得ています。このようにNAの制作については自らが自然に赴き、そこで学んだことをレイアウトで表現することが一つの大事なプロセスだと思います。今回は、紅葉の景観表現、赤系有茎草の見せ方や管理方法まで私なりにとことん探求して確信が持てるレイアウトスタイルで、さらにはご覧いただいた方々の持つ水草のイメージを一新するという強い意気込みで制作しました。赤系有茎草の鮮やかさを引き出すには、カリウムや鉄分などの液体栄養素を適切に添加することが重要です。レイアウト立ち上げ初期では水質や藻類の発生具合、有茎草の生長スピードなどから水槽内の養分量を意識して栄養素の種類と量を調整しました。また、照明システムはソーラーRGBを昇降できる仕組みになっており、最初の1カ月間は水面上の照度を5,500Lux〜13,000Luxで随時微調整して水草の生長スピードや藻類発生回避をコントロールしていました。当然のことですが、摘み取り作業一つとっても極められた美しさを維持するためには1節間単位でカットラインを決めています。こうした細かな水景管理を担っているのが、ADAとおたる水族館の合同管理チームであり、私たち水景クリエイターの制作意図をよく理解した上ですべての管理作業に取り組んでいます。そのチームワークが美しい水景を支えていると言っても過言ではなく、日々の地道な作業が感動を生むものだと思っています。
美しい景観を維持すべく、管理チームで綿密な打ち合わせが日々行われる。
本プロジェクトに向けた熱い気持ちをそのまま表現したかのような有茎草の情熱的な赤色。

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