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NATURE IN THE GLASS 「雨過ぎて蒼く」

本間 裕介本間裕介

時間がつくり上げる趣もまた大切な表現要素の一つとなる


[ 雨過ぎて蒼く ] 自然の景観は日々変化し、さまざまな表情を私たちに見せてくれるが、偶然出会えた自然の表情や雰囲気にふと感動を覚えることがある。 渓流で見た石の配置や活着したコケの様子、倒れた流木の光景などはその典型でもあり、レイアウトの具体的なヒントにもなりやすい。ではなぜそうしたシーンに魅了されるのかと考えてみると、膨大な時間がつくり上げた景観だからに他ならない。時間のスケールこそ違うが、ネイチャーアクアリウムでも長期維持によって生まれる自然感や趣があり、そんな何気ない表現も大切にするようにしている。
ⒸAQUA DESIGN AMANO

DATA


撮影日 : 2021年6月15日(ADA)
制作 : 本間 裕介(レイアウト制作・文)
水槽 : キューブガーデン W180×D60×H60(cm)
照明 : ソーラーRGB ×3(1日8時間30分点灯)
ろ過 : スーパージェットフィルターES-2400(バイオリオ)
素材 : 万天石、ジャティウッド
底床 : コロラドサンド、アクアソイル-アマゾニア Ver.2、パワーサンド・アドバンスL、バクター100、クリアスーパー、トルマリンBC
CO2 : パレングラス・ビートル50Ø、CO₂ビートルカウンターで1秒に10滴(タワー使用)
AIR : リリィパイプP-6によるエアレーション 夜間消灯時15時間30分
添加剤 : ブライティK、グリーンブライティ・ミネラル、グリーンブライティ・アイアン、グリーンブライティ・ニトロ
換水 : 1週間に1度 1/2
水質 : 水温25℃ pH:6.2 TH:20mg/L

水草 :
エリオカウロンsp. ‘ソーシャルフェザーダスター’
ジャイアントサジタリア
ボルビティス・ヒュデロッティ
ミクロソラム・トライデント
南米ウィローモス
プレミアムモス
ウィローモス

魚種 :
アフリカン・ムーンテトラ
サイアミーズ・フライングフォックス
オトシンクルス
ヤマトヌマエビ

自然がつくり出す悠久のドラマを風景から感じ取る

三面川の源に残る自然
磐梯朝日国立公園内に位置する三面川は朝日連峰を源流とし、鮭の遡上で古くから知られている。満々と水をたたえた三面川の四季折々の美しさは別格で、その支流や周辺の原生林には野生的な景観が今も数多く残っている。ここを最初に訪れたのは約20年前、天野 尚とのフィールド撮影に同行したときだ。特に5、6年前からは毎年それぞれの季節に訪れ写真におさめている。人を寄せ付けないこの荒々しい雰囲気はまさに神域と呼ぶにふさわしい。撮影ポイントまでの道のりは険しく、あまり人の近づかないであろうこの場所だからこそ、今も美しい景観が残されていたのかもしれない。
自然の摂理に倣う
深い森の樹木は樹高が高くなるため渓谷内に差し込む光が極端に少ない。そのためシダ類などの陰生植物が多くなっている。この雰囲気を水槽で表現しようとしたとき、シダ類をメインに使い、時間の経過を表現するために数種類のコケを使う。そして渓流の雰囲気と清涼感の演出のためにテープ状の水草を使いシンプルに仕上げる。石や流木の形や使う水草の種類など素材の魅力を最大限に活かすことを大切に思っており、自然の摂理に倣って無理な植栽や表現はしないように気をつけている。 2021年6月6日/撮影 本間 裕介
岩と水の流れの関係性
春の雪解け水や大雨によってもたらされる渓流の水の流れの力は凄まじく、人間が動かせないような石も簡単に押し流してしまう。久しぶりに行くフィールドで石の向きや川の流れが以前に比べ変化していることがほとんどである。その中でも大きな岩は形を変えず、そこに存在し続けている。日々変化する自然の中にも動かず変わらないものがあることで風景としての骨格が保たれ、美しい景色が形成されている。

 

自然から学ぶ 姿勢を忘れない
この場所には何度か足を運んでいるが、同じ風景のときは一度もない。何度も通うことで自然のさまざまな変化に気づくことができ、そのたびに新しいことを学べる。壮大な風景だけではなく渓流の石の向きやシダ植物の着生場所にも目を向けることで、自然のディティールを水景制作の際の表現の一つとして取り入れることができている。
本間 裕介
ADA 水景クリエイターのリーダー。フィールドでの経験を生かし、ネイチャーアクアリウムを通して、自然の持つ魅力を伝えている。
耳で感じ取る
最近は写真の他にも現地で音を収録している。他の感覚にとらわれず聴覚のみという情報だけのほうがより感覚が研ぎ澄まされ、自然のディティールまで知ることができるからだ。石の角度や水の深さで水音が変化したり、風音や虫の音の響き方でその空間の広さを感じ取れたりと収録した自然音を持ち帰って聴くのはとても楽しい。いずれイベントなどで収録した音を皆さんと共有できる機会があれば嬉しい。

一時の自然の表情を表現する


ネイチャーアクアリウムギャラリーの開放的な導線を活かして、自然の中で見ることのできる光と影の部分を水槽の前面と裏面の2方向から見て楽しむことのできる構成にしている。そのため素材選びも重要で、表現したいイメージにマッチした直線的な流木を選び、その構図から光の方向と水の流れを明確に感じ取れるようにした。自然風景の中で一瞬の表情と出会うように、イメージに合った流木や石などの構図素材との出会いもレイアウト制作では大切な要素となる。今回のレイアウトのヒントを得た新潟県村上市の三面川にある倒木や石の風景との出会いと、そのイメージにマッチする構図素材との出会い。それぞれの出会いがこのレイアウトの創作意欲を高めてくれたとも言えるだろう。
構図
2020年6月30日 撮影

1.直線的な流木を使用


メインとなる大きな石を軸に直線的な流木を絡むように配置。そうすることで、三角構図が活かされ、空間に向かう流れが強調される。こうした力強い構図はしっかりと間をつくることも重要である。
素材が大きいため構図の微調整には時間がかかる。

2.テープ状水草を植栽


石や流木の隙間にアマゾニア ver.2を流し入れ、ソーシャルフェザーダスターを植栽し水中感を強調した。空間部分を保つため背の低い水草をいくつか選定していたが、葉の細いエキノドルス・テネルスなどにしてしまうと1つの塊のように群生してしまい印象が薄れてしまうので、葉の大きいジャイアントサジタリアを植栽し存在感を明確にした。
自然界での石と流木の間の堆積物に植物が生育する姿をイメージしながらソイルを流し込んだ。

3.シダ類の使い分け


ボルビティスを基本に活着させているが、裏側から見た場合に明るいイメージにしたかったので、光の当たる部分にポイントでミクロソラム・トライデントを活着させた。葉の色味によって明るい部分と暗い部分をつくりコントラストをつけている。
完成(前面)
ⒸAQUA DESIGN AMANO
時間の経過と陰の表現
ボルビティスとミクロソラムのようなシダ類をメインに植栽して渓流の植物相と長い年月の経過を表現。化粧砂部分には流木が朽ちていった木片が散らばっている様子を表現した。細かい流木は浮きやすいのであらかじめ沈むか確認しメインの流木と同じモスの種類を活着させた。
側面
流木の傾きで陰と陽を表現
前面は手前に傾けた流木を多くし影の多い部分をつくり迫力を出している。反対に裏側は流木が前面側に倒れていて光が多く当たるようにし、一つの水景で二つの表情を楽しめるようにしている。水景横から見るとその傾きがわかりやすい。
裏面
澄んだ川の水と陽の表現
ほとんどの部分を大小さまざまな石を散りばめ渓流の清涼なイメージを再現。ボルビティスの濃い緑に合うコロラドサンドを敷き渓流の礫のようにすることで、澄んだ水域を表現した。

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