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CREATOR WORKS [ 水辺の移ろい ]

CREATOR WORKS [ 水辺の移ろい ]

aquajournaljpアクア・ジャーナル編集部
ⒸAQUA DESIGN AMANO
[ 水辺の移ろい ] 日本の水辺における渓流域と湖沼域の景観や植生の変化を一つの水景表現とした習作。水草の選択については日本産にこだわらず、日本産水草が持つ雰囲気に近似した水草を用いた。また銀鱗きらめかせるバリリウスの群泳は、水の流れの強調表現にもつながった。
DATA
制作日:2021年12月27日
撮影日:2022年7月7日
制作:荒木 大智(ADA SUIKEI CREATOR)
水槽:キューブガーデン W1,800×D600×H600(mm)
照明:ソーラーRGB ×3(1日8時間30分点灯)
ろ過:スーパージェットフィルター ES-2400(バイオリオG)
素材:山水石、ホーンウッド
底床:アクアソイル-アマゾニア Ver.2、パワーサンド・アドバンスL、バクター100、クリアスーパー、トルマリンBC、トロピカルリバーサンド
CO2:パレングラス・ビートル 50Ø、CO₂ビートルカウンターで1秒に5滴(タワー使用)
AIR:リリィパイプP-6によるエアレーション 夜間消灯時15時間30分
添加剤:ブライティK、グリーンブライティ・ミネラル、グリーンブライティ・アイアン、グリーンブライティ・ニトロ
換水:1週間に1度 1/3
水質:水温25℃ pH:6.2 TH:50mg/L

水草:
1 ナガバコウホネ
2 ホソバノウナギツカミ
3 キクモ
4 ヤナギモ
5 ミクロソラム・ナローリーフ(BIO)※
6 ブセファランドラ・シンタン(BIO)※
7 ボルビティス・ヒュデロッティ(BIO)※
8 ブリクサショートリーフ(BIO)※
9 インディアン・クラススラ(BIO)※
10 エリオカウロンsp. ソーシャルフェザーダスター
11 エキノドルス・テネルス・マディラ
12 リシア(BIO)※
13 ヘアーグラス(BIO)※
14 ウィローモス(モスバッグ)※

魚種
バリリウス・バケリ
ニジイロボウズハゼ
カゼトゲタナゴ
サイヤミーズフライングフォックス
オトシンクルス
ヤマトヌマエビ

ⒸAQUA DESIGN AMANO
※はADA生体製品ラインナップです。
植栽 2021年12月27日撮影
完成 2022年7月7日撮影

SUIKEI CREATOR INTERVIEW


荒木 大智 Daichi Araki
日本の水辺を凝縮した心象風景を表現
-この作品はちょっと変わった構成に見えますが、その制作コンセプトから聞かせてください。

左側が上流域の表現、右側が下流域の表現になっていて一つの水景の中で2つの流域の表現を取り込もうと試みました。挑戦的な水景だったと言えると思います。インスピレーションとしては日本の水辺なのですが、川の流れって上流域、中流域、下流域とあって、それぞれ景観の様子も違い、そこに生える水草の種類も変わってきますよね。その変化がテーマとなっています。もう少し具体的に言うと、左側は山の中の渓流域を表現しています。渓流域にある水辺の特徴としては、岩が多く、水の流速は速くエネルギーを感じます。そのため岩が削られたり、表土がさらわれたりします。こうしたエリアに自生している植物と言えば、石や倒木に着生するシダや苔の仲間でしょうか。一方、右側は下流の主に湖沼域をイメージしてレイアウトしてます。湖沼は水の流れとしては比較的穏やかな場合が多いですし、沈水植物、抽水植物など多種多様な水草の仲間が見られるようになりますよね。こうした変化を一つの水槽に凝縮したようなイメージで制作しましたが、正直難しかったですね。自業自得ですけど……。

-確かに発想は斬新ですね。左右で構図素材の選び方も違っていますよね。

そうですね。構図素材で言うと左側は石にせよ流木にせよ大きくゴツゴツしている感じで、右側にいくとそれらが水流で削られ流れ着き、朽ちた様子を表現するために割と小さめの石や流木を配置しています。構図写真を見ていただくと、左側から右側にかけて穏やかな様子になっているのがわかると思います。また中央部分では一本の大きな流木を斜めに配置していますが、ここは空間の確保も兼ねて標高の高い所から低い所への流れを表現し左右の景観をつなぐ橋渡しの役割を持たせています。
構図 2023年6月23日撮影
-上流域と下流域の変化が作品のテーマということですね。

はい。 今回の水景は「水辺の移ろい」というタイトルをつけたんですが、日本は自然が豊かで山がたくさんある分、それに応じてたくさんの川があります。渓流は幅が狭く流れが早いのですが、標高が低くなるほどこうした流れがたくさん集まり、幅の広い緩やかな川となっていきます。そうした日本の水辺の景観の変化、植相の変化が面白いと常々思っていたんです。川遊びをした清流、魚とりをした湖沼などそんな少年時代の体験もこうした発想につながっていると思います。

-要するに身近な自然がヒントになっているということですね。

そうですね。私たちが住んでいる日本のフィールドは、とても繊細で魅力的です。また少しの移動で渓流域から平野部の下流域まで観察できます。今回の作品制作でも渓流域に赴いてそこを観察して中流域を移動し観察して、そこからさらに降りて湖沼に行ってフィールドを観察しインスピレーションを膨らませました。
今回の作品制作のインスピレーションを膨らませた渓流の風景。 (撮影:荒木大智)
日本産の水草をできるだけ多く植栽した。
-水草も日本産水草が使われているようですね。

日本の水辺をイメージしているので、使える日本産水草はできるだけ使用するように考えました。ヘアーグラス、コウホネ、キクモ、ホソバノウナギツカミなどの水草です。しかし日本産水草にこだわったわけではなく、熱帯の水草も使っています。エキノドルス・テネルスなどもそうですが、こうして使ってみても日本の水辺のイメージを崩すような存在ではありません。あくまで日本の水辺の繊細でやさしいイメージを表現してみたつもりです。

-かなり挑戦的な制作だったんですね。

そうとも言えますね。左右で違う世界観のレイアウト構成や水のエネルギー、日本的な情緒だったりともう明らかに難しいんです(苦笑)。私も今までにやったことがありませんし、今回それがうまくいったかと言えば、もう少し左右のイメージをフュージョンさせるというか融合させてもよかったのかなと思っています。でもこうした試行錯誤が新たな表現のきっかけになると思っているのでいろいろな学びはありましたね。

-AJ vol.343で紹介した「水辺を想う」も日本の水辺がテーマになっていたと思いますが、今回の作品との関連性はありますか。

ありますね。AJでの紹介は「水辺を想う」が先になりましたが、実は制作自体は今回の作品の方が先でして「水辺を想う」は今回の作品の右側のイメージを広げた表現なんです。レイアウト表現を探求していく上で、同じテーマで連作することによって自分なりのイメージというか表現が確立されていくということがあるので作品表現が似通ってしまいますね。とにかくこの2作品では、水草特有の美しさを存分に楽しめるような表現も目指していました。近年は構図素材の印象が強い水草レイアウト作品を目にする機会が多い印象もあり、透明感ある柔らかな水草が印象的な水景の魅力を伝えたいと考えていた影響もありますね。
今回の作品の右側のイメージを広げた作品「水辺を想う」。(AJ343掲載)
-なるほどわかりました。制作してから3年ほど経っていることになりますが、今改めて作品を見てどう思われますか。

あくまで自己評価ですが、面白いとは思いますね。構成がユニークできれいだと思いつつも表現の荒さが気になります。もう少しバランスも取れると思いますし、制作時はくっきりと左右の世界観を分けたほうがいいと考えていましたが、今見ると少し違うかなと思いますね。でもこうした表現に挑戦したことはよかったと思います。

-では難しい点はどこでしたか。

やはり左右の表現を明確に変えているにもかかわらず、全体的に破綻なくまとめるという点でしょうか。この点については今考えるともう少しうまくできたんじゃないかと思っています。ただ左右で世界を分けるレイアウトパターンというのは、今後も機会があれば挑戦していきたいと思っています。アマゾンやアフリカ地域のパターンなんかも面白そうですし、インドのフィールドに出かけたときのイメージもいかせそうです。

-確かに荒木さんは海外でもレイアウトセミナーを行なっているので、行く先々で出会った風景などもいい刺激になっていそうですね。

そうですね海外のフィールドは自分にとって非日常の世界なので、どこも新鮮に見えて刺激になります。特に日頃、水槽の中で見ている魚や水草に出会うと感動的であり、独特の地域性を感じます。ただその一方で改めて日本の自然の繊細さ、美しさを認識することにもなっているように思いますし、子どものころに水辺で遊んだ記憶が蘇ってきます。今、ADAの水景クリエイターとしていろいろなレイアウトを制作していますが、ときどきこうした日本の水辺をテーマとした水景に取り組んでみたくなるんですよね。それを原点回帰と言っていいのかわかりませんが、今回の作品がまさにそうで私の中の心象風景だと思っています。

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