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石組「考」 本間裕介 × 井上大輔

石組「考」 本間裕介 × 井上大輔

aquajournaljpアクア・ジャーナル編集部

「石」への探求心
渓流風景はレイアウト表現に通ずる


さまざまなスタイルがあるネイチャーアクアリウムの中でも原点と言えるのが石組レイアウトです。自然を偉大なる師と仰いだ天野 尚が「自分だけの表現」を得た手ごたえを感じ、生涯向かい合う必要のある課題として認識していたレイアウト表現はいまも多くの水草愛好家に影響を与え続けています。その石組のヒントやイメージを掴むためにはフィールドでの撮影活動が欠かせません。自然の造形の美しさが際立つ渓流での撮影は、レイアウト表現に通じるところがあります。実際に自然の川を事細やかに観察することで、一見不規則に並んでいるように見える石の配置にも理由があることがわかります。長い年月をかけて、石は水に流され転がり続けます。水深や川底の形状、川幅や傾斜などの要因が複雑に絡むため、ひとつとして同じ風景はありません。規則的でありながら、その場所唯一の風景が広がっているため、そこに自然のロマンを感じるのかもしれません。そのような風景をフレームの中に切り取り、バランスよく収める技術を磨くことで自身の感性が高まり、そこには洗練された独自の世界観が生まれます。
新潟県・水無渓谷
撮影 本間 裕介
石組レイアウトの世界観は天野が確立したものですが、ADA水景クリエイターたちもその哲学や技術を受け継ぎながら、さらなる高みへと昇華させるべく努力しています。その他のネイチャーアクアリウムの表現に比べ、石組の場合は個人の精神性や考え方、哲学などがレイアウトに影響を与えます。自然の普遍的な美しさが最もシンプルに表現される水景を彼らはどのように解釈し、本質をとらえながら自分唯一の表現として制作にあたっているのでしょうか。それぞれの思いをインタビュー形式で聴き取り、本心に迫ります。

天野尚の石組の伝承
そして次世代へ思うこと


水景クリエイター本間裕介に井上大輔が三尊石組へのこだわりを聞く
井上 本間さんは石組レイアウトの作品数が多いですが、石組をつくる上での原動力はなんですか。
本間 天野 尚の水景制作に長年携わってきて、技術や感性に惹かれ、いつか自分も天野と同じように石組レイアウトをつくってみたいと思ったのがきっかけです。撮影やレイアウト制作などで行動をともにすることで天野に近づけるんじゃないかと思ってどんなことにも積極的に取り組んできました。憧れがすべての原動力です。
長年、天野の撮影や水景制作に助手として経験を重ねてきた。
井上 その憧れが三尊石組への取り組みにもつながっているのですね。
本間 そうですね。天野が手掛けたネイチャーアクアリウムの中でもオリジナル性が高く、石組レイアウトの基本にして王道であるのが三尊石組です。いくつかある石組のスタイルの中でも三尊石組はすべての基本となり、実際に自然の中に天野と一緒に撮影に行ったり、石組をつくってきたりした中で自分も天野と同じようになりたい、その手法を伝えたいと思っています。ADAの水景クリエーターになってレイアウトをつくるようになってからは、天野の三尊石組にならって自分が納得いくものをつくりたかったことと、師匠としての憧れもありました。基本をしっかり学んでそれをやってからじゃないと自分のオリジナリティーは表現できないと思っています。

井上 では、石組を伝えていくうえで大切なことは何でしょうか。
本間 天野がつくり出した水景としての石組を、形だけではなく精神性みたいなものも伝えていきたいと思っています。石組に対するプロセスみたいな部分も大切ですね。また水景の作例からだけじゃなくて「自然から学ぶ」という基本的な姿勢もきちんと今の若手たちが受け継いでいけるように指導しなくちゃいけないと思っています。自分と天野がそうだったように、構図やレイアウトの技術だけでなく、一緒に自然の中に撮影に行ったりして自分の経験から伝えていきたいですね。NAギャラリーで水景をつくるってなると写真での見た目や構図の取り方だったり、素材の角度っていう指導も必要だと思うんですけど、そういうのとは別に自然の中に流木なり石なりがあって、その流木や石にもきちんと自然との関係性や摂理があることも知って欲しいと思います。

井上 ADA社内では幻の石組と呼ばれる昨年中止となった大阪でのイベントで展示予定だった石組について聞かせてください。
本間 この三尊石組(写真下)は基本に忠実な配石を意識しながらも、自然から学んだ自分の考え方を織り交ぜています。例えば、親石の左側の副石を見てもらいたいんですが、天野がつくる三尊石組では、どちらかと言うと親石の左側、流れとは逆方向に大きい副石を立てることが多いんです。この石組ではそこをあえて倒していて、これは今回の制作にあたって素材の八海石の産地にある源流に撮影に行ったときに得たヒントを活かしています。一個大きい石があることで、その川下のほうには強い流れが生まれていて、大きい石の隣には水流によってできた空間がある。そういう自然から得たディテールをこの石組に表現しました。
「ネイチャーアクアリウム 生きたアート展」にて展示予定であった3m石組レイアウトの構図。
井上 制作を通して、感じたことや苦労した点などはありますか。
本間 親石となる一番大きい八海石で100㎏以上の重さがありました。それを水槽の中に入れる手順であったり、搬入までいかに持っていくかを何度もシミュレーションをして水槽以外の部分でもしっかりとよい水景がつくれる準備をしました。構図を決めるときも何人かで持ち上げたり、単純なパワーも必要でしたが、それ以上に水景に携わる全員の精神的なパワーもすごく大切でした。この3mの石組水景は、私個人の水景ではなく、ADAのチームとしてつくり上げたものだと思っています。
井上 本当に大変でしたよね。この三尊石組は本間さんにとって特別な思いもあるようですね。
本間 そうですね。人生のターニングポイントになった水景でした。3mの石組レイアウトは今までやったことのない挑戦でもあったし、チャンスだと思いました。制作過程を通して天野の考え方や作品を手本にしながらも、そこに自然から得た自分自身の表現を織り交ぜて納得のいく水景にできたことは自信にもつながったし、天野の石組を通して養った精神性はこれからの新しい水景をつくるときに原動力にもなると思っています。新型コロナウイルスの影響で大阪のイベントが中止となり展示がなくなったことは残念ではありましたが、こういう時代だからこそ、ネイチャーアクアリウムが人々に与える癒しはすごく大切だと強く思うし、これからは天野の石組を伝統として次の世代に伝えていく存在にならなくてはいけないと思っています。いつでも天野と同じようになりたいと思うし、いつか超えたいとも思っています。
開催直前でイベント中止となったため、魚を投入する前にやむなく撤去せざるを得なかった、幻の石組。
サイズ : W300×D60×H70(cm)

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