ADA

石組「考」 井上大輔 × 内田 成

石組「考」 井上大輔 × 内田 成

aquajournaljpアクア・ジャーナル編集部

目指すところは作品自身がストーリーを語るような水景


水景クリエイター 井上大輔に内田成が水景に込める思いと創作目標を聞いた
内田 井上さんの石組レイアウトを見ると一般的な石組に比べ少し特徴的な印象を受けますが、どのようなことを考えて制作を行っていますか。
井上 私のつくる石組レイアウトは一般的な石組とは見た目の部分で違うように見えることもあると思いますが、まったく新しく自分のオリジナルでつくっているわけではありません。天野 尚の水景制作への情熱や美しい自然を残したいという気持ち、その水景をつくるまでのストーリーの部分はとても勉強になり、レイアウト制作をする上で私もすごく参考にしています。石組に限らず、レイアウトをする際は自分の中の原動力の部分だったり、その水景が生まれるまでのストーリー性を特に重要視しています。
内田 そのストーリー性とはどのようなものですか。
井上 私の言うストーリー性とは、水景をつくる人自身の世界観や創造性、何を伝えたいかという意味です。それを水景という最終的な表現の中に反映させています。そのつくる原動力というのは人それぞれで、自然が好きとか表現したいものがあるとか、何か必ず理由があるはずなんです。そこは自分のオンリーワンな部分でもあり、他人と比べようがない部分でもあります。つまりそこが一番大切なんだと自分は思っています。だから水景を見ただけで、そのストーリー性を感じとれる水景というものはいい作品になりますし、自分にしか描くことができない自分だけの世界観にもつながると思っています。

内田 なるほど。だからストーリー性の部分を大事にしているんですね。
井上 そうですね。でもどんなにいいストーリーを考えていたとしても、それを水景に落とし込むテクニックがないと気持ちや思いを伝えることはできないんです。そのためには基本的な構図やレイアウトの知識、水草の種類や性質などの知識は最低限必要になってくると思いますし、それが表現力につながります。自分だけがわかればいいというものでしたら想像力だけでもいいかもしれませんが、水景を観る方にストーリーを感じてもらうためにはやはり想像力と表現力の両方が必要になってくると思います。
「清流にあそぶ」 サイズ : W180×D60×H60(cm)
内田 ストーリー性や表現力ということを踏まえて考えると、この「清流にあそぶ」という作品にもテーマがあると思われますが、それはどのようなものでしょうか。
井上 この作品のテーマは原寸大の川底を再現することでしたが、ただテーマにそって制作したものではなく、水景クリエイターとしてレイアウトをつくる「意味」を自分なりに考えて制作したものです。観る人によって感じ方は違うと思いますが、原寸大に近い水景をつくることによって少しでも自然の美しさや今の環境の現状を考えるきっかけになればという思いもありました。そのためこの水景に関してはどちらかというと自分の考えたテーマを伝えたいというよりは、観る人に何か感じてもらえたらこの水景を制作した意味はありますし、ADAの理念を感じ取ってもらいたいという気持もありました。そこで初めてADAの水景クリエイターとしてレイアウトをつくる「意味」が生まれるのではないかと思っています。

内田 そうですね。でも制作意図は、直接観る人全員に説明できるわけではないので難しいところですよね。
井上 そう思います。そのためこの水景に関しては、極限までシンプルにまとめることにも重点を置きました。複雑な構図や植栽にしてしまうと、観る側としては他の水景と比べてどうだとか、違う水草のほうがいいのではというストーリー性以外の細かい所に目がいってしまい本当に大切な部分に気持がいかなくなってしまうと思ったからです。あとは同じような意味でかっこいい構図をつくりすぎないことで制作者(自分)の存在を消すことも意識していますし、このように極限まで不必要な部分を排除していくことで、水景を観る人に考える余白の部分を残すことも大切だと考えています。その余白の部分から観る人それぞれのストーリーが展開していく。だから水景を観ただけでストーリーが流れてくるような「水景自身が語る」作品が最高だと自分では思っていますし、自分の目指すところでもあります。

RELATED POSTS関連投稿

POPULAR POSTS注目の投稿