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ネイチャーコラム 第10回 「出会い咲くサクラ」

小川 龍司小川 龍司
常日頃からネイチャーに身を置くライターが身近な自然をテーマに 季節ごとのコラムを発信していきます。 
サクラからは何が想像できますか? お祝いであったり、出会いであったり良いイメージが思い浮かぶ方も多いでしょう。一方で、別れの季節に咲くものでもあり、苦い思い出などが連想されてしまう人もいるかもしれません。そんなサクラですが、今回取り上げるのはヤマザクラです。身近な花木ですが分類上、実はサクラを同定して一種類ずつ観察するのは少し難しく、そのうえ自然交配も生じて雑種も珍しくないなど、識別には苦労します。専門のハンドブック図鑑が発売されているほど、楽しむことのできる生き物とも言えるのかもしれません。ヤマザクラは開花のタイミングで新芽が展開し、桃色と黄緑色の中間のような淡い明褐色の葉が、花満開の枝にもう一つの彩りを添えます。このような姿はソメイヨシノでは見られないので、見比べてみるとよいでしょう。新潟県では春の日差しが増え、雪解けが進むとヤマザクラは蕾を少しずつ膨らませます。全国から桜開花や菜の花畑の便りが届くころには日向に面した樹から順々に開花していきます。写真のヤマザクラは水辺に面し日差しは受けやすいようですが、気温が上がりにくいのか周りの木々が新緑を広げる頃に満開を迎えます。ここでは、カイツブリやカルガモといった水鳥が観察でき、親子で泳いでいる姿も見かけます。また、水中の一部ではエビモが群生し、水面にはヒシやコウホネといった水草も自生しています。夏には薄暗い中ヒグラシが鳴き終わるとヘイケボタルが飛び交う、幻想的な空間となります。美しいヤマザクラが満開の姿、ただそれだけでもここに来る理由になるのですが、また一つまた一つと楽しみを発見してしまうと、足繫く通うことになっていくものです。一本のヤマザクラをきっかけに観察に出かけることになったこの水辺ですが、本当にたくさんの生き物たちと出会うことができます。この春、どんな出会いが見つかるかわかりませんが、まずはヤマザクラを堪能しにネイチャーへ出かけてみてはいかがでしょうか。

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