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NATURE AQUARIUM GOODS HISTORY – Story 02. “リリィパイプ”

NATURE AQUARIUM GOODS HISTORY – Story 02. “リリィパイプ”

aquajournaljpアクア・ジャーナル編集部
「自分が本当に欲しいもの、それだけをつくってきた」─────
今から約27年前に天野尚によって提唱されたネイチャーアアクアリウムは、アクアリウム用品そしてレイアウトスタイルに多大な影響をもたらしてきました。ADAが開発してきたすべてのアクアリウム用品は、天野独自の着眼点とアイディアをもって生み出された完全オリジナル製品です。水槽の中に美しい自然水景をつくり、またその美観の長期維持に必要となるものを、天野は自身の経験による徹底したこだわりと感性によって次々と生み出していきました。美しさと機能性を兼ね備え、且つ、使う楽しみを提供できるものであることがADA製品の一貫したこだわりです。そんなADAのオリジナル製品がどのように生まれてきたのか、ここでは、生前天野が語った述懐をもとにその誕生秘話を紹介していきます。

ネイチャーアクアリウム・グッズの基本理念を究極な形で提案する吸水&出水パイプ


水槽内に創られたネイチャーアクアリウムの世界観を損なうことなく、水景になじむ洗練されたカタチが見ていて心地よいリリィパイプ。ユリをイメージさせるそのガラスデザインは、NAグッズの中でも際立った美しさがあります。「レイアウト水槽に使用する器具は水景に溶け込む美しさがなければならない」というNAシリーズの基本理念を究極な形で提案したのが、リリィパイプをはじめとする給水&出水シリーズと言えるのです。

「水が流れ出す場所は、それを十分に生かすための美しさが必要」


20年以上前、天野尚の発想のもと、機能性と美しさにこだわり抜いて生まれたリリィパイプ。誕生から今日に至るまでファンを魅了し続ける、そのシンプルで独特な形はどのようなアイディアから生まれたのか。「アイディアとして生まれたというよりも、自分がただ必要だと思ったんだ」という天野の答えはじつに彼らしいものです。レイアウト自体が美しくても使用する器具が悪質なものであると、どうしても見た目に違和感が生まれます。それならば、水景に溶け込むきれいなガラス器具で、きれいな形をした器具が欲しい、そんな単純な思いを天野は製品開発の発想に繋げていきました。
リリィパイプは20年以上も前につくったものでありながら、そのデザインに代わるものは出てこなかったと天野は言います。それだけ完成度が高かったということでしょう。「水の流れというのは、本来ものすごくきれいなものでしょう。だから、水が流れ出す場所は、それを十分に生かすための美しさが必要だと思うんだ。水の持つ繊細でやわらかい流れを、いかに曲線的にうまくとり入れるか。吸い込まれる時も違和感がないようにしないとダメ。より自然なカタチになるように追及したりして開発時はいろいろと大変だったね」

「子供のころの観察が画期的な開発のひらめきに繋がったりするんだ」


リリィパイプは、それまでの外部式フィルター用のシャワーパイプとはまったく異なる形状で、水草の育成に適した水流を実現した画期的なものでした。実は、天野はこの原理を自身の子ども時代の記憶をヒントに得ています。「学校帰りによく道草していたところに土管があって、出口に渦巻きが生じてクルクル水流が生まれる場所があったんだ。そこに葉っぱや何かを入れると吸い込まれて反対側の出口から出てくるんだけど、その様子が面白くて。リリィパイプの試作品の高さを調整しているときに、偶然その水流を巻き込むという同じような原理を見つけたんだ。それで、出水パイプの首の角度を変えてその渦巻きがより自然に吸い込まれるようにしたんだよ。子供のころの観察が画期的な開発のひらめきに繋がったりするんだ」
パイプの首の角度こそを熱心に研究した天野は、給水パイプをラッパ状にし、広がった部分にフィルターからの出水がぶつかり水流が適度に弱まるように設計しました。また、給水パイプの首の角度は、給水パイプ自体を少し持ち上げて設置すれば、夜間の酸欠を防ぐエアレーションも出来るようにも考えられており、これによってエアーポンプなしに効率的にエアレーションすることを可能にしました。

「結局ヒトの手がつくるものだから、まったく同じものは出来ない」


機能性、美しさ。これらが考え抜かれて生まれたリリィパイプですが、生産は一つひとつ職人さんの手づくり。要となるガラスの曲線は、リリィパイプを重ねて見ると、どれもほぼ同じ幅に仕上がっていますが、それは職人さんの長年の経験から成しえる技術によるものなのです。
「結局ヒトの手がつくるものだから、まったく同じものは出来ない。プラスチック製のものみたいに、型に樹脂を流し込んでつくるわけにはいかないからさ。どれも一つひとつ、職人がガラスを吹いて曲げて作っているんだよ。だから世界中どこを探してもまったく同じものなんてあるはずがない。昔の茶碗や盃なんかにも言えることだけれど、いびつな方が個性があって好きなんだよね。均一に整えられたきれいなカタチよりも、ちょっと歪んでいるものとかさ。そういうのを味として見てもらえるかどうかだよね。同じものができないということと手作りであるが故に生じてしまう違いを、受け入れてもらえるかどうかということ。遊び心というか、そういう風に個性として『味があるな』って思ってもらえればうれしいな」

「ネイチャーアクアリウムのスタイルそのものがこだわりや感性によって生まれるもの」


リリィパイプに続いてポピーグラス*やバイオレットグラス*といった新しいカタチの吸水&出水パイプを発表し、すべて花の名前で統一していますが、そこにも天野なりのユーモアとこだわりがあるのです。「リリィパイプは、見てもらえればわかると思うけれど、ユリのカタチしているじゃない?ユリの花が、満開というよりも今にも咲きそうな感じ。ポピーグラスは、ポピーが咲いて丸く広がっているようなイメージだし、バイオレットはスミレの花びらのイメージ。ポピーグラスは、どちらかというと水流の勢いを弱めるつくりになっていて、柔らかい感じがする。バイオレットは意外と水流が強くて形もシャープだから、それぞれの特徴に合わせて選んでもらえばいいと思うよ」

*現在は販売終了しています。
それぞれ個性ある吸水&出水パイプ。デザインするうえで天野が大事にするのは、やはり使い手の楽しさなのです。「せっかくアクアリウムを始めるのだから、やっぱりただの飼育器具ではおもしろくないじゃない? ネイチャーアクアリウムのスタイルそのものがこだわりや感性によって生まれるものだから、鑑賞する楽しさを感じてもらえるようなものを提案し続けていきたいんだ」

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